この宿に立つ、ということ|人吉温泉しらさぎ荘 女将の徒然日記

人吉温泉しらさぎ荘の旧館を、建築家である父が描いた手描スケッチ

父が描いた、在りし日の旧しらさぎ荘。 しらさぎ荘の記憶は、ここから続いています。

わたくしの父は建築家で、
かつて旅館の改修にも携わっていました。

仕事から戻ると、
家でぽつりぽつりと、こんな話をしていたのを覚えています。

「旅館は、女将の采配で決まる」
「旅館というのは、女将そのものだ」

その頃の私はまだ子供で、
旅館の女将とは何なのか、
正直よくわからないまま、その言葉を聞いていました。
どこか遠い、大人の世界の話。
自分には関係のないものだと、そう思っていたのです。

まさかその何十年後、
自分が旅館を預かり、
「女将」と呼ばれる立場になるとは、
あの頃の私は想像もしなかった。

今でもまだ、
自分がこの旅館の女将であるということが、
正直なところ信じきれないでいます。
ふと我に返って、
気遅れしてしまう瞬間も、少なくありません。

しらさぎ荘に立ち、
日々の采配を重ねる今になって、
父のあの言葉が、
静かに身体の奥で腑に落ちてくるのを感じます。

旅館は、
建物や調度、料理だけで成り立つものではない。
最終的には、
そこに立つ女将が、
どんな覚悟で、どんな眼差しで在るか。
そのすべてが、
宿の空気となり、
人の心に残っていくのだと。

そんなことを思っていたとき、
父が描いたスケッチを、
ふと見返しました。

柔らかな鉛筆の線と、水彩のにじみ。
そこに描かれているのは、
建物というより、
この場所に流れていた時間のようです。

屋根の稜線も、窓の位置も、
設計図のように正確でありながら、
不思議と硬さがない。
構造を見つめながら、
同時に「宿の呼吸」を感じ取っていた人の線だと、
今ならわかります。

建物が真正面ではなく、
ほんの少し斜めから描かれているのも印象的で、
そこには威厳ではなく、
迎え入れる姿勢がありました。

そして下に記された
「熊本県 人吉市 しらさぎ荘」という文字と日付。

この一枚は、
単なるスケッチではなく、
父にとってこの宿が
作品であり、生き物であったことの証なのだと感じます。

旅館は、女将そのものだ。

その言葉と、
この絵が語っていることは、
不思議なほど同じでした。

おそらく父は、
この宿を描きながら、
そこに立つ誰かの在り方まで、
思い描いていたのかもしれません。

物語を楽しみに訪れる方もいれば、
静けさに身を委ねに来られる方もいます。
けれど最終的に残るのは、
この場所の空気と、
そこに立つ人の在り方なのだと思うのです。

あのとき、
何気なく聞き流していた父の言葉は、
ずっと先の未来に向けて、
そっと置かれていたものだったのかもしれません。

もしかしたら、
あの頃からすでに私は、
しらさぎ荘の女将として生きる道を、
知らず知らずのうちに受け取っていたのかもしれない。

そんな不思議な気持ちで、
今日もまた、
女将としてこの宿に立っています。

そして、
しらさぎ荘は今日もまた、
凛とした静けさをたたえています。

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